Asahi Business Consulting|朝日ビジネスコンサルティング

朝日ビジネスコンサルティング 福岡・九州を中心にサービスを提供するコンサルティング会社です

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第1話 「社内コミュニケーションの難しさ」

ケース4.~飲食店経営者の挑戦

 わが社は、県内に30数店舗を持つ飲食業である。15年間、ファミリー層を中心としたメニュー開発、店舗設計を行ってきた。従業員の接客についても力を入れており、現場主義を貫く経営スタイルとの評価も高い。
 そのようなわが社に大きな転機が訪れた。バブル期と言われる時代にも不動産投機などに走ることなく、飲食業に特化した着実な経営を推し進めてきたのであるが、ここ数年は客数の減少によって各店舗の売上高減少が顕著に表れており、コスト削減だけでは間に合わない状況となった。全社売上高の減少は、これまで店舗設営資金として調達してきた資金返済と相まって資金繰りを圧迫してきており、金融機関対策も行わなければならない。
 このような状況の中でも、自分の経営スタイルに自信を持つ社長の田宮は当面の資金繰りが安定すれば大丈夫だとの認識でいた。店舗設計にもメニュー開発にもこれまでのスタイルを変更することなく経営を行ってきた。金融機関との関係も、これまでうまくいっていたので、当面の資金を確保できれば大丈夫だと判断していた。
 メーン銀行の担当者鈴木が田宮を訪問してきたのは、経営状況が悪化をしてはいるが、回復できると考えていると金融機関に説明に回った後のことであった。鈴木は、数カ月前から当社を担当している。これまでの担当者とは少し違った対応をすると田宮は思っていた。この態度が金融機関としての対応の変化であるのか、あるいはこの担当者だけのキャラクターなのかということについて考えることはなかったのだが…。
 鈴木は社長室に入るなり尋ねた。「田宮社長。業績はいかがですか?」
 田宮は答えた。「ここ数年は非常に厳しかったよ。何せ景気が悪かったからね。飲食事業なんてのは、景気に左右されるものなんだ。景気がようやく上向きになってきたんだから、もう大丈夫だよ。これまで地道に飲食事業にまい進してきたからね」
 そう言った田宮に鈴木は数点の質問を投げかけた。「田宮社長。それはよかったですね。当行としましても非常に心配していたところです。ところで、各店舗のこの2年の売り上げ、経費、営業利益の資料を見せていただけませんか。また、直近、数カ月の同様の資料も提示いただきたいのですが…」
 田宮は答えた。「先日の御行訪問時には、各店舗ごとの資料は提出していなかったかな。全社の数字のみの提出になっていたか。ちょっと待ってくれ。経営企画部から持ってこさせるから」
 経営企画部の岡田が資料を持って社長室に入ってきた。資料を提示しながら説明を加えた。「これが当社直営店舗の過去2年間の業績の推移です。年度ごとに月別に作成されており、項目は、売上高、原価、人件費、店舗運営費、その他販管費として表記しております」
 資料を一通り確認した鈴木はさらに質問した。「きっちりと作成されていますね。ありがとうございます。では、客数、客単価の資料もございますか?」

 田宮は岡田が分かっているだろうと思っていたが、岡田からは次のように説明があった。
 「現時点では、店舗側のPOSデータなどは会計システムへ接続されておらず、当部では販売企画部から売り上げと及び原価の数字をもらっているだけなのです。その数字であれば、販売企画部から提出してもらう必要がありますので、しばらくお待ちください」
 田宮は内心では、なぜ掌握できていないのかと感じながらも、そのまま待っていた。販売管理部の東が資料を持って入ってきた。資料を見せながら鈴木へ説明した。「こちらが店舗ごとの過去2年度前からの客数、客単価の推移です。原価についての数値はこちらにございます。ご要望の資料はこちらでよろしかったでしょうか」
 鈴木は確認して、答えた。「分かりました。ところで、これらの計数がまとまって記載されている資料はないでしょうか。別の資料を見ていくことが大変なので、あれば助かるのですが…」
 岡田と東は顔を見合わせた。数字の検証は行ってきたが、同じ管理資料上にまとめた資料は持ち合わせていない。どちらかというと、管理の視点が違うということで統一の資料にしようという発想自体がなかったのである。
 岡田が答えた。「現時点では、ないですね。作ろうと思えば作れますが…。経営企画部では、売上高、原価および利益の推移を店舗ごとに管理しています。経費使用の変化や売上高の変化などは管理していますが、客単価や客数に関しては営業部門に任せていますので」
 東も補足した。「販売企画では経営企画部とは別の視点で店舗の売り上げをどのように上げていくのかについて検討しています。POSデータは、現在、販売管理部に集計されてそこで加工を行っています。ここでは、客数と客単価の推移を時間帯別、顧客属性別に管理しています。これらの計数を用いて店舗の売り上げを上げるためのメニューや企画の作成を行っているのです。経費などに関しては、岡田が申しましたように経営企画部で管理しているのです」
 鈴木は2人の回答を聞き、社長の田宮へ話を振った。「田宮社長。今のご説明ですと各部署の担当者は自分の担当をしっかりと認識されているようですね。きっちりと役割分担が行えています。よく理解できました。現状の認識を行う際に、本日頂いた資料を参考にさせていただきます。一つだけ教えてほしいのですが、全体の計数についてはどなたがすべてを掌握されていますでしょうか。各部署が管理する数字は分かりました。どの点に注目し、対策を検討されておられるのかについては理解できましたが、全体の数字を現場レベルから積み上げて見ることができる方あるいはその仕組みについて教えていただきたいのですが…」
 社長の田宮は、顔が真っ赤であった。岡田と東が説明している中で、今、鈴木が質問した点は田宮の疑問でもあった。田宮自身はすべてを掌握していると思ってはいるが、ほかのメンバーも同様のレベルにあると思っていた。それが違ったのだ。各部署は割り振られた役割だけを果たし、全体を見ていないのだ。
 田宮は答えた。「私もあなたと同様に感じています。恥ずかしい話ですが、今まで私と同じレベルで岡田も東も会社全体を見ていると思っていた。だからこそ、各部署から出てくる計数およびその分析を受け入れ、経営判断をしてきたつもりなのです。その根底が揺らいでいる…」
 鈴木は次のように答え、銀行へ戻った。
 「もう一度、管理職の方々と現状の計数を持ち寄って、きっちりと現状分析を行う必要があるのではないでしょうか。本日の資料をもとに私どもも検討しますが、返済資金が厳しいという現実に対して、社内で現状をとらえることが何より優先されると思いますよ。他社さまでも、その部分には特別に費用をかけてコンサルタント会社に入ってもらったりしているくらいですから。今が見えなければ出口は見えません!」
 田宮が社内コミュニケーションの難しさを痛感し、現状の会社を冷静に見るきっかけであった。これからの数カ月、戦いが始まる予感である。

文/朝日ビジネスコンサルティング・古川 武史
takefumi.furukawa@asahibc.co.jp

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